『平家物語』1話

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少女が男の手を引いて道をあけ、その場で起きていることを伝える。これだけで少女と男が親子であること、男が盲目であることがわかる。くすんだ色合いの町に禿の纏う赤装束が鮮烈に映り、娘を守らんと斬られた男の血はより深い赤。咲いては花首から落ちる沙羅双樹の花が深い赤の影を落とし、これから起こる戦乱を表す。ため息が出るほど美しい導入だ。山田尚子×吉田玲子の新作と聞いて楽しみにしていたが、この導入だけでかなり満たされた。

続く平家一門の宴会シーンもまた圧巻だ。白拍子(祇王)を見てにやつく清盛に対し、その正室である時子は表情を変えずにふふふと言う。それを聞いた清盛は時子のほうを向いて笑いかけ、これを受けた時子は、次は笑顔でふふふと笑う。下座にいる重盛がこれを見て冷や汗をかく。アニメでこんな言外の応酬は見たことがない。1秒も見逃してはならんと言われているようで背筋が伸びる。その後、フラストレーションの溜まっている時子は遅れてきた時忠に怒るが、清盛は時子の膝に頭をのせることでそれを宥める。エロ坊主に見えて実は切れ者であることがよくわかる。もうフェイタンとザザンの闘いを見るカルトの気持ちになってしまった。

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HUNTER×HUNTER冨樫義博

 

人物の前に草花や虫を置く構図を多用し、時の経過をテンポよく表す。感情の昂るシーンほど表情を見せず、手や足で表現する手法は今作も健在だ。起こった事件は琵琶法師となった未来のびわが語り手となり、端的に語る。それによって各人がどういう感情を抱き、どう動くのかということのほうが重要だからだ。

冒頭で水に沈む一輪の沙羅双樹の花が描かれ、終盤で徳子の溺れる姿が映る。視聴者に学があれば顛末はわかっているが、学がなければ“あっ”と思う。私は“あっ”と思った。学があってもなくても楽しめる最高の作品である*1

 

*1:唯一、劇伴(厳島神社の構想シーン等)やED曲等、音楽の面は首を傾げてしまった。