愛と家族を探して

愛と家族を探して

  • 作者:佐々木 ののか
  • 発売日: 2020/06/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

主義というのは自分が持って実践すればいいだけのもので、その思想を広めようとか異なる主義の人を責めようなどとは思わない*1。その前提の上で、私は反出生主義よりの思想を持っている。そして本書を読んでまず抱いた感想は、「子どもを産むまでの過程」や「子どもの育て方」に対する偏見が最も少ないのは反出生主義的思想を持つ人間なのではないか、ということだ。なぜなら「どのような過程・方法だろうが産んでいる時点で皆同じ」だからである。個別の事情を鑑みないひどく雑で乱暴な理論に聞こえるかもしれないが、問題としている部分が異なっているのだから仕方ない。

無論前提に則って、「産みたい」という願望を否定する気は全くないのである。感情まで制限される世界の住み心地が良いわけないのだから。そしてそういう「~したい」という願望は可能な限り叶えば良いとも思っている。叶ったら嬉しいのだから当然のことだ。そんなわけで、「子どもを産みたい」「家族を持ちたい」と思い、しかしその方法(形態)が大衆と異なる人々が大衆からの謎の圧力で潰されそうになっているのであれば、その圧力が和らげば良いと思う。その意味で、本書はそういう人々の希望になり得ると感じた。

次に、本書で紹介されるエピソードのどれもが「他人と生きていく」ことに対して積極的で、それを実践しているという点に憧れと不安を感じた。前者は他人と生活することへの不安(恐怖)というおそらく誰でも持っている(だろうと私が勝手に思っている)感情を乗り越えてそれを実践する人たちに対する憧れだ。私個人としては、共同生活の幸福なビジョンというものが想像できずにいて*2、だから現状他人と生活したい(それと同等の関係になりたい)とは思えない。ただ、一人でいることと他人と関係を深めていくことを比べてみると明らかに後者のほうが困難でしんどいことだと思うため、それを試行錯誤してどうにか自分の形を見つけようとする姿勢はとても眩しく映る。不安というのもまさにそこで、眩しく映ってしまった以上、そこには「そうなってみたい」という願望があるはずで、この先ずっとそれを抱えて生きていくのはとてもしんどいだろうなという不安である。困難でしんどいことを率先してやることが全て素晴らしいことだとは思わないから、そこではなく、こっちに行ったほうが幸福そうだなという方角を定めて進んでいることが眩しく映っているのかもしれない。「~したい」ではなく「こっちは怖いなあ」という感覚で生きている身としては、どっちがいいだろうなと思ってしまうわけである。

もう一つ、単純に興味深かったのは「沈没ハウス」の話だ。シングルマザーの子育て云々に関しては大学で一度講義を受けたことがある。その内容はシングルマザーの貧困や精神的負担等を軽減するためのアイデアをグループ毎に出そうというものだったのだが、その時に「実現可能かは置いておいて、シングルマザーだけを入居者に指定した団地を造って、その中で保育・家事・外での仕事といった役割分担をすればいいのではないか」という意見を出した。「沈没ハウス」はそれをより緩やかな連帯・対象でもって20年も前に実現したものであるのだから、驚きを隠せずにはいられない。思いつくものは大抵先駆者がいるものだなあと改めて実感した。

 

将来の話などしたくはないのだが、実際将来を思ったときに今の状態がずっと続くのは考えたくない*3。結婚という具体的で威圧感のあるワードは怖いので置いておくとして*4、方角くらいは考えたほうがいいのだろうか。本書を読んで様々な生き方を知り、可能性が広がったような気分ではあるのだが、自分に合ったものを探す・開拓する(あるいはしない)という課題は変わらずそこにあるため、立ってる位置は同じなのである。

どうしたものでしょうね。

 

ところで月が変わって8月になり、お盆という大型連休に入った。一カ月前までの予定では現在すでに退職しているはずだったのだが、実際平然と仕事を続けていて誰に対してでもないがお恥ずかしいばかりである。長すぎる梅雨が明けて暑すぎる夏になったが、木陰の続くサイクリングロードを通勤経路とする自転車通勤の身としては本当に気持ちの良い日々である。天候ごときに感情を左右されない屈強な人間になりたいものだ。

*1:殴り合える関係なら殴り合ったほうが楽しいとは思う

*2:本書に紹介されるエピソードの中でもこれだ!と思えるものはなかった

*3:今は充足しているが、飽き性なので

*4:本書を読んでより怖くなった