読書記録

最近読んだものついて、かなり雑にあれこれ書く。

 

先日『今村夏子について』という記事を書いたのだが、実はその時点でまだ読んでいない今村夏子の作品があった。『星の子』だ。

星の子

星の子

 

 これを読んだあと、過去の記事を修正もしくは加筆すべきかなという気持ちになったのだが、自分の書いたものを読み返すのが億劫だからやめた。

あらすじ

主人公・林ちひろは中学3年生。出生直後から病弱だったちひろを救いたい一心で、両親は「あやしい宗教」にのめり込んでいき、その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく。

 あらすじが内容を誤解させるタイプのものだった。新興宗教の怖さ的なそれではなく、親が信じているものと世間との隔たりや思春期のよくある悩みなど、多くの人が経験しているであろう普通の葛藤が丁寧に描かれていた。

新興宗教という忌避されがちなものに嵌る家族が題材となると、読み手はどうしても身構えてしまう。家庭が崩壊し離散するのではないか、戦場ヶ原ひたぎ的なアレになるのではないか等。しかしこの作品で描かれている家族は、子への愛情という意味ではむしろ多くの家庭よりも幸福そうにさえ見えた。なにより主人公の両親は、彼女をその信仰から開放しようとしているのではないかと思わせるような言動を見せるのである。それができる人間は多くないだろう。

あらすじ言うところの“その信仰は少しずつ家族を崩壊させていく”というのは、信仰対象が新興宗教でなくとも成り立つことである(資本主義にも国家にも置き換えられる)。我々が身構えてしまうそれも、中を覗いてみれば他と変わらないことのほうが多いのではないかという視座に立った作品だと思う。

 

 『おらおらでひとりいぐも』

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

 

 図書館でたまたま目に入ったため読んだ。

筆圧がすごい。これが処女作だというのが信じられない。

ノローグであるのに、過去の自分、未来の自分、急進的な自分、保守的な自分等さまざまな自分が登場し、さらには祖母や亡き夫といった死者までもが語りかけてくるため、終始とても賑やかだ。そして東北の訛りと標準語の入り混じった文と形式の自由さによって、より主人公の心情がダイナミックに伝わってくる(少し過剰で苦手なところもあるが)。

内容を簡単にまとめるなら、誰しもがもつ不安や後悔を74歳の女性が深く考えるというものだ。読み手はその脳内を覗くことになるわけだが、可笑しくて悲しくなってしまう。もともとそんな自信はないのだが、これを読んで70歳まで生きるのは無理だと感じた。

 

『Didion 03』

Didion 03

Didion 03

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: エランド・プレス
  • 発売日: 2019/12/13
  • メディア: 雑誌
 

 演劇特集で、例によって私の好きなブログを書いている人が寄稿されたと聞いたため読んだ。

私が積極的に演劇を見るようになったのはここ1年半ほどで、8公演しか観ていない。そのため、まだ演劇ならではというか演劇の一番の魅力的なものを理解できておらず*1、観て感じる他ないのだろうと思いつつも、つい演劇論的なものを読んでしまうのである。そして今回もまた、実際に観るしかないという結論に落ち着いた。

「生」のエネルギー、肌で熱量を感じられるといったことはよく聞くため、そういう演劇にこれから出会えると良いなと思うわけだが、一番気になるのは観劇の作法だ。

私の少ない観劇歴から、どうやら観客にはリアクションが要求されているように思う。生身の役者が観客と同じ空間で演じている以上、たしかに無反応は堪えるだろうからその意味で納得できはする。ただ、間違いなく感性の違う人がいて、その人の笑い声によって観ているそれがなにか別物のように思えてしまうことが多い。感性が違うのだから笑ってしまうのは仕方のないことであるが、観客のリアクションと舞台上で行われる演技の両方が合わさって演劇なのだとすれば、私から観たそれは“笑えないシーンで笑い声が響く不気味な作品”という印象になるのだ。舞台上で行われる演技単体で演劇なのだとすれば、その笑い声は雑音でしかない。雑音は排したいのだが、そこでまた感性の違いと役者と同じ空間にいるという問題にぶち当たる。

これは初めて観劇したときからずっと思っていたことで、解決策が見つからない。もしかしたら私の知らない作法があるのでは、という気持ちになっているため、知っている人がいたら教えてください。

 

その他

たてがみを捨てたライオンたち

たてがみを捨てたライオンたち

  • 作者:白岩 玄
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2018/09/26
  • メディア: 単行本

 

 

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

サピエンス全史(下)文明の構造と人類の幸福

 
早稲田文学増刊 女性号 (単行本)

早稲田文学増刊 女性号 (単行本)

 

 

ムック本はいいですね。

 

*1:面白い作品は多くとても楽しめるのだが、演劇特有の面白さが理解できていない